【連載】第3回:ストレスと羽毛損傷行動の関係

羽毛損傷行動連載第3回目は、ストレスと羽毛損傷行動の関係についてです。ストレスを感じるとなぜ羽毛損傷行動を起こすのでしょうか?そして同じ環境でもなぜ羽毛損傷行動を起こす鳥と起こさない鳥がいるのでしょうか?その謎に迫ります。

認知とストレス

人も動物も出来事は同じでも、それに対する反応は様々です。例えば人が道端でカラスに出くわしたとしましょう。カラスをみて可愛いと思う人もいれば、怖いと思う人もいますし、無関心の人もいます。鳥に新しく買ったおもちゃを見せたとしましょう。おもちゃを見て好奇心で寄ってくる仔もいれば、怖がって近寄らない仔もいますし、全く無関心な仔もいます。目の前で起こった出来事をどのように認知したかでその出来事がストレスになるかどうかが決まってくるのです。ストレスになる環境変化や出来事をストレッサーと言います。まず下の図を使って、ストレスと羽毛損傷行動の関係について解説していきましょう。

①環境変化・出来事

家族人数や鳥数の変化、人間-鳥関係・鳥-鳥関係における変化、夫婦喧嘩、家族や鳥の病気、来客、子供の夏休み、ステイホーム、テレワーク、旅行、ぺットホテル、ケージの変更、新しいおもちゃの導入、部屋の模様替え、新しい家具やカーテンの導入、リフォーム、引越し、地震、台風、カラスやネコの襲来など鳥の周囲には、ストレッサーとなり得る様々な環境変化や出来事があります。

②認知

これらの環境変化や出来事をどのように認知するかでストレスになるかどうかが決まります。認知は、思考した結果ではなく、瞬時に情動として現れます。情動には不快があり、不快と感じたものがストレスになります。もう一つの認知として無反応というものがありますが、無関心な状態、つまり興味も恐怖も感じない状態ですので、この場合はストレスを感じません。何事にも動じない鳥はこのタイプですね。

認知は、脳のフィルターのような物で、生まれ持った気質、生まれてからの経験、ヒナの時のストレス度合いによって形成されたいわゆる個性です。他の言い方をすれば、性格や世界観、価値観とも言えます。

このように認知には人と同じように個体差があります。人のある行動がハラスメントになるかどうかは、された人が不快と感じるかどうかで決まるのと同じです。仕事で叱られた時に、自分のために教えてくれると認知したした人は快(感謝)と感じますが、怒られて怖いと感じた人は不快(パワハラ)と感じますよね。人の場合は、リフレーミングによるポジティブシンキングで認知を変えられますが、鳥にはできません。鳥にストレスとなっていないかは、人がよく観察して気をつけなければなりません。

③ストレス

環境変化や出来事に不快と感じるとストレス反応が起こります。ストレス反応は、下垂体前葉から放出される副腎皮質刺激ホルモン、副腎皮質から放出されるコルチコステロン(人は主にコルチゾール)、副腎髄質から放出されるアドレナリン、交感神経から放出されるノルアドレナリンといったストレスモルモンによって起こります。ストレスホルモンは、血圧と血流を上げて、エネルギー代謝を亢進させることで身体のパフォーマンスを上げる役割があります。危機的状況の時には役立ちますが、慢性的なストレスの場合は、身体に悪影響を及ぼします。

④ストレス対処

ストレスを感じると鳥は何とかその状況に対処しようとします。この時に出る反応を戦うか逃げるかすくむか反応(fight-or-flight-or-freeze response)と言います。例えば新しい鳥をお迎えした時に、噛もうとする鳥もいれば、驚いて逃げる鳥もいますし、すくんで動けなくなる鳥もいます。新しいおもちゃを見せた時に、威嚇する鳥もいれば、嫌がって逃げる鳥もいますし、すくんで動けなくなる鳥もいます。新しいケージに入れた時に、積極的に中を調べる鳥もいれば、怖がって暴れる鳥もいますし、すくんで動けなくなる鳥もいます。

闘う反応といっても、怒るということを指しているのではなく、積極的に行動することです。人で言えば目的指向型の性格の持ち主で、問題に対して積極的に解決するために行動するタイプです。逃げる反応は、人で言えば問題回避型の性格の持ち主で、問題があると避けて通るタイプです。すくむ反応は、自分では行動せず、周囲が改善・解決するのを待つタイプです。

鳥が環境変化や出来事でストレスを感じた時に、うまく対処できればストレスを感じなくなります。例えば、人の近くに行こうと思ったらいつでも行けるようになったり、嫌なことがあれば逃げることができたり、その環境変化や出来事に慣れてしまったりすれば、問題は無くなります。

ところがストレスに対して対処する行動が取れない、もしくは好む人や鳥の不在が長く続くなど、鳥自身ではどうしようもないような状況が続くと、ストレスが慢性的に継続します。そこでストレスを何とかして緩和しようとした結果起こる行動が羽毛損傷行動を含む異常行動なのです。

⑤ストレッサー

ストレッサーとなった環境変化や出来事でも、ストレスにうまく対処できると、それはストレッサーではなくなります。うまく対処できない環境変化や出来事は、いつまでもストレッサーとなり続けます。羽毛損傷行動を治療するには、人がストレッサーを見つけ出してそれを改善するか、鳥自身がストレッサーに慣れたり対処できるようになることが最も重要になります。

羽毛損傷行動の意図

動物の行動には、何らかの意図があります。意味もなく、羽を抜く行動はしません。羽毛損傷行動は、ストレス対処のための代替行動と言われています。本来行うべき行動ができないため、代わりの行動でストレスを緩和しています。繰り返して同じ行動をするため、異常反復行動とも呼ばれています。異常反復行動には、常同症(常同行動)も含まれます。

羽毛損傷行動の意図は、自己刺激であると見られています。羽を抜いたり、噛んだりすることは触覚刺激であり、気分を落ち着かせる効果があります。自己刺激には、触覚刺激のほか、前庭刺激視聴覚刺激があります。
鳥の通常の生活での触覚刺激は、羽繕いによる自己刺激だけでなく、仲間との親和行動(キスや羽繕いのし合いなど)による他者刺激があります。鳥のストレス緩和には、親和行動が非常に重要な役割を果たしており、人や他の鳥との接触不足は、過剰な羽繕いによって補おうとします。この過剰な羽繕いの延長上に羽毛損傷行動があると考えられています。

羽繕い(自己刺激)

親和行動(他者刺激)

親和行動(他者刺激)

鳥も人も生きていく上で、必ずストレスが付き纏います。そのストレスを緩和することで、精神的な健康が保たれます。人は、気の合う仲間と会話したり、好きな音楽や映画を見たり、遊園地や動物園に行くなど、様々な方法でストレスを緩和しています。ところが飼い鳥は、ストレス緩和の行動を自分で選択することができません。人に与えられた選択肢の中で、ストレスを緩和できなくなった時に羽毛損傷行動は発症しやすくなります。
今回は、ストレスと羽毛損傷行動の関係について解説しました。次回は、羽毛損傷行動学習のメカニズムについて解説します。

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