【連載】第4回:羽毛損傷行動学習のメカニズム

前回は、羽毛損傷行動がストレス緩和の代替行動であることを解説しました。動物の行動には,生まれつき備わっている行動(生得的行動)と、経験により獲得される行動(習得的行動)があります。習得的行動は、経験から学習して得た行動です。羽づくろいのような自己刺激は生得的行動ですが、羽毛損傷行動は習得的行動です。今回は、羽毛損傷行動の学習のメカニズムとステージについて解説します。

羽毛損傷行動の学習

オペラント学習

学習には脳の報酬系が関与しています。報酬系はドーパミンによって調整されています。ドーパミンは脳内の快楽物質で、「〜したら良いことがあった」と感じる時に放出されています。最も分かりやすい例が「芸をしたらおやつがもらえた」です。動物に芸を教える時に最も有効なのが、ご褒美による正の強化です。ご褒美によって芸を学習するのです。羽毛損傷行動は「羽を抜いたら、気分が緩和した」という体験を経て学習します。ドーパミンは、ストレスを緩和する作用があります。嫌なことがあっても、良いことがあるとストレスが緩和するのはドーパミンによる作用です。このような学習をオペラント学習と言います。

レスポデント学習

学習にはもう一つ、レスポデント学習というものがあります。条件反射古典的条件づけとも呼ばれ、パブロフの犬が有名です。犬に餌を与える前にベルの音を鳴らすことで、次第にベルの音を聞くだけで唾液を分泌するように条件づけすることができます。これはベルの音で餌が貰えることを学習したことで唾液が出るようになります。別の言い方をするとある条件で「期待するようになった」ということです。羽毛損傷行動のレスポデント学習過程は、まず「飼い主さんが来ると嬉しい」という生得的な反応があります。次に羽を抜いてギャっと言った時に飼い主さんが近づいて「どうしたの?」と心配したり、やめなさいとケージを叩いたりします。これを繰り返すと、羽を抜くと飼い主さんが相手をしてくれると学習します。本来はストレス緩和で羽を抜いていたのに、羽を抜くと飼い主さんが相手してくれると期待するようになります。このようにいつのまにか羽を抜く行動が注意喚起のための行動に置き換わるとさらに難治性になるので注意が必要です。

ハイブリット学習

羽毛損傷行動でけでなく多くの習得的学習は、オペラント学習かレスポデント学習かを分けることはできず、混合して学習すると言われています。これをハイブリット学習と言います。

羽毛損傷行動のステージ分類

羽毛損傷行動はステージが進行するほど難治性になります。多くの行動は最初は意識的に行いますが、徐々に無意識的に行われるようになります。ここでは羽毛損傷行動のステージ分類について解説します。

Stage1:ストレス対処行動

ストレスに対処する本来の行動が取れないために行われる代替行動として羽毛損傷行動を行っている状態。自ら意識的に羽を抜いたり、齧ったりしています。意識的に行っている段階では、ストレスの原因(ストレッサー)が改善することで羽毛損傷行動が消失します。

Stage2:嗜癖化

嗜癖化とは、癖になった状態です。羽毛損傷行動は繰り返していると、徐々に無意識的に行うようになります。例えば人のストレス緩和行動である貧乏ゆすりや爪噛みは、やろうと思ってやっているのではなく、無意識のうちに始めています。そしてそれをしていると精神が落ち着いていられるので、なかなか辞められません。これは鳥も同じで、羽を抜いたり噛んだりを繰り返しているうちに、羽を弄っていないと落ち着かなくなってきます。この状態になると、原因を改善してもなかなか治らなくなります。

Stage3:羽包障害・自咬

羽を抜き続けると、羽包(人でいう毛包、毛穴)に障害が出ることがあります。1つの羽包から2本の羽が生えたりするようになると、気になるので少し羽が伸びると抜くことを繰り返します。また皮膚の自咬をするようになると、痛みや痒みが伴うため、自咬部分を噛み続けるようになります。Stage3の状態は、違和感や痛み、痒みといった誘発する事象が起こっていることから、意識的に羽毛損傷行動や自傷行為を行っています。この状態になると、難治性となりを辞めさせることが困難となります。

抜羽を繰り返したことにより羽包から2本生えるようになったコザクラインコ

腋窩付近を慢性的に自咬しているコザクラインコ

今回は、羽毛損傷行動のメカニズムとステージについて解説しました。次回は、ストレスの分類と対処法について解説します。

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