【連載】第2回:羽毛損傷行動の原因は?

羽毛損傷行動連載第2回目は、羽毛損傷行動の原因について解説します。今まで羽毛損傷行動の原因は「ストレス」の一言で説明されてきました。なので毛引きをしているからと病院で診察受けても、「ストレスが原因ですので、ストレスがかからないようにしてください」なんてことが繰り返されてきました。そんなことは獣医師じゃなくても知っています。いったい何がストレスなのかを理解しなければなりません。羽毛損傷行動の原因には、様々な因子が関連していることが分かっており、多因子疾患と言われています。それではその因子を4つに分けて解説していきましょう。

 

遺伝的

遺伝的とは、鳥種や気質のことです。気質とは遺伝的に生まれ持った性格のことです。単純に性格と言うと気質だけでなく後天的な経験で習得したものも併せたものを指します。鳥種によって羽毛損傷行動の有病率が異なることが分かっています。さらに個体単位で見れば、気質の影響も疑われています。羽毛損傷行動を起こしやすい鳥種と気質の個体がいるということです。2018年に全国で行った第1回飼い鳥実態調査では次のような結果が出ています。

第1回飼い鳥実態調査 毛引きの有病率(一部抜粋)

質問内容:現在毛引をしていますか?

鳥 種 有病率
セキセイインコ 4.8%
オカメインコ 7.3%
コザクラインコ・ボタンインコ 23.2%
サザナミインコ 6.4%
アキクサインコ 3.5%
マメルリハ 16.9%
メキシコインコ類・ウロコインコ類 10.9%
白色オウム類(キバタン、タイハクオウムなど) 29.7%
ヨウム 24.3%
ブンチョウ 2.6%

 

有病率とは、現在毛引きをしている割合のことです。「現在毛引きをしていますか?」の質問に「はい」と答えた割合です。この結果から羽毛損傷行動を起こしやすい鳥種が分かります。大型鳥は知性が高いため、退屈によりストレスを感じやすいといわれています。人気鳥種で気をつけなければならないのは、コザクラインコとボタンインコの有病率の高さです。約4羽に1羽が羽毛損傷行動を起こしており、非常に発症しやすいことが分かります。もっとも有病率が低いのがブンチョウで、羽毛損傷行動を起こすことが少ないです。ただし有病率が低いからと言って、ストレスを感じ難いと言うわけではないので注意しましょう。

社会環境

社会環境には、育ちと飼育環境が含まれます。育ちとは、鳥が育った育雛環境ことです。飼育環境は、現在飼育されている環境ことです。ここでは、これらの環境について解説していきましょう。

育ちについて

鳥類のみならず哺乳類においても、未熟で生まれてくる動物は親の保護を受けながら成長します。動物によって異なりますが、母親もしくは両親で育てます。子供は、親の行動を観察し、様々な経験を経て餌の探し方や仲間との関わり方を学びます。特に母親の存在は重要で、母親と長く生活した動物の子供はストレス耐性が高いことが様々な研究で分かっています。

飼い鳥の多くは、人に馴らすためにヒナの内に巣から取り出してさし餌をして育てます。これは今まで当たり前のように行われている飼い方ですが、よく考えてみると親や兄弟から離されるという鳥からすれば不自然な育ち方をすることになります。人でも三つ子の魂百までと言われますが、鳥もヒナの時の育雛環境はとても重要です。

人に親鳥と同じようなケアができるでしょうか?薄暗い巣の中で、常に側にいて、適切な今日の餌を与えて、巣立ちの時は飛ぶことを教え、餌の探し方や食べ方を教えて、そして自分一人で生きていきけるよう自立するために親離れを行います。この過程の中で、親の役割、両親からジェンダー性、仲間の特徴、仲間との付き合い方(社会性)などを学習します。正常な学習をできなかった鳥は、様々な問題行動を起こすことが知られています。

またヒナの時期は安全・安心な環境が重要です。ペットショップで販売されている鳥の多くは、ブリーダーで巣から出された後、輸送され問屋に行き、再び輸送されてペットショップにきます。そして飼い主さんのもとに来る時も輸送されて新しい環境にきます。ヒナにとって突然起こる目まぐるしい環境変化は、強いストレスを感じさせる原因となります。ヒナの時のストレスは、個体差がありますが攻撃性の増加や神経症傾向が見られることが多くなることが知られています。

さし餌の方法が性格に影響することも知られています。ヨウムで調査された研究では、スプーンやシリンジでさし餌された個体に比べ、フィーディングチューブでさし餌された個体は、人への攻撃性が高くなりました。これのはっきりした原因は分かっていませんが、フィーディングチューブを口から入れるために鳥を抑えることがストレスになっている可能性があります。インコ・オウムへさし餌する場合は、スプーンやシリンジを使うようにしましょう。

このように飼い主さんの気付かないところで、育ちという重要な時期に羽毛損傷行動を起こしやすくなる性格がバックグラウンドとして作られてしまっています。育ちの問題を改善する方法は、また改めて解説します。

飼育環境

鳥は飼育環境から大きな影響を受けています。環境の変化あることもないこともストレスを感じる原因となります。ストレスを感じる環境変化とは、主に一緒に生活する人と鳥に関係しています。様々な原因で家族の人数が変わることがあると思います。単身赴任や大学入学、結婚、出産などで、家族の人数が変わることがあります。人数が変わらなくてもお仕事や学校、入院などで家にいる時間が変化したり、放鳥時間や回数が変わって人と接触する時間が増減変化したりと変化することがありますが、これは鳥にとって強いストレスとなります。同じように鳥が増えたり、減ったりすることもストレスになります。新しく鳥お迎えしたり、落鳥したりすることで、鳥は強いストレスを感じます。また鳥にも好き嫌いがあり、嫌いな人、鳥、その他ペットの存在は、強いストレスとなります。

逆の環境変化がないことがストレスになることがあります。これは一言でいうと「退屈」です。なんら変化のない同じ日々の繰り返しは、人と同じようにストレスになります。野生では、季節によって餌場や餌の内容が変わりますし、常に様々な群れの仲間とコニュニケーションをとって、精神的・身体的な刺激があります

退屈のストレス対策に重要になるのが環境エンリッチメントです。エンリッチメントとは、生活を豊にする工夫のことを言います。近年動物園においても様々なエンリッチメントが行われています。飼い鳥でもフォージングやおもちゃ、音楽などで鳥が退屈しないようにすることは、非常に大切です。

生物学的

生物学的な因子には、本能と学習が含まれます。動物の本能の根幹にあるものは、生きて繁殖することです。その生き方や繁殖に関することは通常親鳥から学びます。鳥は生まれながらにして、配偶者を知っているわけではありません。親鳥の姿を見て、それと同じ姿をしている動物を仲間と認識し、その中から配偶者を選択します。そのため人に育てられた鳥は、人を仲間と認識し、人とペアを組もうとします。飼い鳥の多くは一夫一婦制です。ですから家族の中で一番好きそうにしている人は、ただ単に好きなのではなく、自分のペアと認識しています。

もちろんペアになったら繁殖しようとします。通常鳥のペアは、鳥種にもよりますが、繁殖期は常に行動を共にします。ですから発情してる時に、ペアが日中いなくなることはとてもストレスになります。繁殖行動がうまくいかず、いつまでも発情だけしていることは強いストレスになります。

また鳥は嫉妬もします。自分のペアと思っている人が、他の家族と話していたり、他の鳥やペットと接しているのを見ることは、予想以上にストレスになっている可能性があります。

医学的

医学的因子には、疾患、感染症、栄養が含まれます。怪我をしたところや腫瘍ができている部分の羽を抜くことがあります。細菌性、真菌性の皮膚炎で羽毛を抜くことがあります。PBFDによる羽毛形成不全で羽を抜くことがあります。非常に稀ですが、栄養の過不足による羽毛の形成不全で羽を抜くことがあります。

今回の連載では、非医学的な原因、主に精神的ストレスによる羽毛損傷行動について解説します。

生理的な毛引き

生理的な原因で羽を抜くことがあります。抱卵中のメスは、巣材として、そして卵に直接皮膚を触れさせるために、胸の下側からお腹辺りの羽を抜きます。しかし何度も産卵と抱卵を繰り返していると羽毛損傷行動に発展することがあるので、注意が必要です。

こちらの画像は抱卵中のセキセイインコです。お腹の羽を抜いて皮膚が見えています。

 

今回は羽毛損傷行動の原因について解説しました。次回は、ストレスと羽毛損傷行動の関係について解説します。

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