糞便検査は鳥の一般検査であり、全ての症例で行われるべきです。糞便検査は、消化管内寄生虫や細菌叢、真菌をみるための検査と思われがちですが、それ以上に病気の診断や治療方針に大きくかかわる情報を含んでいます。この項では、顕微鏡検査所見について解説します。
糞便の肉眼的な異常に関してはコチラ
目次
顕微鏡検査
鳥の顕微鏡検査は、尿酸(白い部分)を分離し、糞便のみをスライドグラスに直接塗沫して行います。尿酸が混入すると鏡検しにくくなります。鏡検をする上で重要なことは、獣医師が正常な便はどのように見えるのか、何が観察されるのか、今の病態から何の出現が予期されるのかを分かっていなければ、異常所見を見落としてしまう可能性が高くなります。ここでは、鳥の糞便の注目すべき鏡検所見について解説します。
細菌
糞便の細菌叢を観察します。鳥の正常な腸内細菌叢は分かっていませんが、最近では次世代シーケンス解析による腸内細菌叢の調査が行われています。
鏡検にて観察される細菌は、正常なものでは短桿菌~桿菌が多く運動性を持った物はほとんど観察されません。単一細菌への偏り、球菌への偏り、運動性細菌の出現、芽胞菌、ラセン菌の出現などが見られた場合、異常である可能性があります。
しかし観察された細菌に病原性があるかどうかは、鏡検だけでは分かりません。調べるためには、培養同定検査が必要となり、外部検査機関へ糞便を提出します。
真菌
カンジダ(Candida sp.)は鳥の消化管の常在菌ですので、鏡検で酵母が少数観察されることがあります。もし大量の酵母や仮性菌糸の出現が見られれば、消化管粘膜上皮の免疫力低下、細菌叢の異常、熱変性したデンプンの摂取などが考えられます。
消化管粘膜上皮の免疫力低下の原因には、栄養不足、特にビタミンA欠乏症があります。
細菌叢の異常の原因には、消化管の炎症や抗菌スペクトルの広い抗生物質投与による菌交代症などが考えられます。
熱変性したデンプンの摂取は、お菓子やご飯、パンなど人間の食事を与えたり、雛鳥のさし餌を作る時に熱湯を使用したりすることが原因となります。カンジダ症の詳細に関してはコチラ
メガバクテリア(マクロラブダス)
メガバクテリア(マクロラブダス)は、鳥の胃に感染する大型桿菌状の酵母です。飼い鳥の中でも特にセキセイインコに蔓延しており、絶対に見逃してはならない病原体です。治療には抗真菌剤を用いますが、胃粘膜内に入り込んだメガバクテリアが消失するには、長期間の投与が必要となります。メガバクテリアの詳細に関してはコチラ
寄生虫
鳥の消化管にもいくつかの寄生虫が感染します。下記の表に鳥種別に出現する可能性のある寄生虫を示します。寄生虫も通常は直接塗沫で鏡検しますが、クリプトスポリジウムはショ糖浮遊検査が必要になります。
表1:鳥種別に出現する可能性がある寄生虫
鳥種 | 分類 | 出現形態 | 寄生虫 |
セキセイインコ | 原虫 | シスト、トロフォゾイト | ジアルジア(Giardia sp.) |
オカメインコ | 原虫 原虫 線虫 |
シスト、トロフォゾイト シスト 虫卵 |
ヘキサミタ(Spironucleus meleaglidis) クリプトスポリジウム(Cryptosporidium sp.) 回虫(Ascaridia sp.) |
コザクラインコ | 原虫 | シスト | クリプトスポリジウム(Cryptosporidium sp.) |
ボタンインコ | 原虫 | シスト | クリプトスポリジウム(Cryptosporidium sp.) |
コガネメキシコインコ | 線虫 | 虫卵 | キャピラリア(Capillaria sp.) |
ナナクサインコ | 線虫 | 虫卵 | 回虫(Ascaridia sp.) |
セネガルパロット | 原虫 | シスト、トロフォゾイト | ヘキサミタ(Spironucleus sp.) |
コンゴウインコ | 線虫 | 虫卵 | キャピラリア(Capillaria sp.) |
ブンチョウ | 原虫 条虫 線虫 |
オーシスト 虫卵、片節 虫卵 |
コクシジウム(Isospora sp.) 条虫(Cestoidea sp.) 胃虫 |
ジュウシマツ | 原虫 原虫 |
オーシスト トロフォゾイト |
コクシジウム(Isospora sp.) コクロソーマ(Cochlosoma sp.) |
カナリヤ | 原虫 | オーシスト | コクシジウム(Isospora sp.) |
表2:寄生虫の顕微鏡・肉眼写真 | |
食物残渣
糞便中に含まれる食物の残渣を観察します。便に明らかな粗粒が見られなくても、鏡検にて大きな残渣が見られる場合には、筋胃でのすり潰しが減弱していることを示しています。
またそれぞれの食物の残渣の特徴的な形態を覚えておけば、何を食べているかを推察できます。
腸粘膜
鏡検にて腸粘膜が多く観察される場合は、腸炎や摂取量の低下が考えられます。
羽毛
鏡検にて羽毛が観察される場合には、食羽していることを示しており、鳥の外観に異常がないように見えても、ダウンフェザーや翼下など見えない部分の羽毛を齧っている可能性があります。
未消化デンプン検査と未消化脂肪検査
小型のインコ類やフィンチ類は、通常デンプンと脂肪はほとんど消化した状態で排泄します。よって糞便中に未消化デンプン、未消化脂肪が排泄されている場合は、膵外分泌不全、胆汁分泌不全が考えられます。
未消化デンプン検査は、糞便にはヨードグリセリン液を滴下し、鏡検します。デンプン粒は、ヨード反応により、こげ茶色の粒子となります。通常弱拡大(100倍)1視野にデンプン粒は、0~1/5個程度です。それ以上見られた場合は、消化機能低下と判断します。
未消化脂肪検査は、糞便にズダンⅢ染色液を滴下し、鏡検します。脂肪滴は、オレンジ~エンジ色に着色されます。通常弱拡大(100倍)1視野に脂肪滴は、0~1/5個程度である。それ以上見られた場合は、、消化機能低下と判断します。
キュウカンチョウやメジロなど野鳥は消化管通過速度が早いため、未消化デンプンは普通に排泄されますが、脂肪はほとんど消化されます。またメキシンコインコやシロハラインコなど果物を好む鳥種では、未消化デンプンが普通に排泄されことがあります。
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